■俺のモン



「───好きです!付き合ってくださいっ!!」

うたた寝をする青峰はそんな唐突の叫び声に、思わず身体が跳ねた。 屋上の更に上にある給水塔のてっぺんは青峰お気に入りの昼寝スポットだ。 優雅な午後のひと時を邪魔する声に舌打ちし、犯人はどこのどいつだとそっと声のする方を見て目を見開いた。 男の方は誰だか知らないが、告白されている彼女は青峰の知る…というより、青峰の彼女・・・・・だった。

「あのバカ…何知らねー奴に告られてんだよ…」

面白くないものを見たと、思わず声に出して呟く。 そして、青峰はもう一度舌打ちすると、暫く二人の動向を見守ることにした。

「俺、入学した時からずっとさんのことが好きだったんだ」
「…えっと…ありがと。でも、ごめんなさい」
「クラスも違うし、あんまり話したことないからいきなりこんなこと言われても困らせるって思うけど、でも、やっぱり伝えたくて…その…友達からとかでも全然いいから、もっとさんのこと知りたいんだ」
「いや、それは…」

「…ったく、のやつ何やってんだ?そんな奴とっととフッちまえってんだ。大体何が『友達から…』だよ。下心しかねーだろ、絶対」

「俺のこともさんに知って貰いたいし…」
「あ、あのね、そういう風に言って貰えるのは嬉しいけど、ごめんなさい。私、彼氏いるの。だから、あなたとは付き合えません」

とうとう言い切ったを見て青峰は嬉しそうに口許をニヤつかせた。

「トーゼンだ、バカ。…ほら、尻尾巻いてとっとと失せろってんだよ…」

「…彼氏?そ、そうか…そうだよね、さん可愛いし、いるよね、彼氏…」
「本当にごめんなさい」
「いや、いいんだ。でもさ、本当に今の彼氏で満足してる?」
「え?」
「俺の方がきっとさんを幸せにしてあげられると思うんだ。今すぐじゃなくてもいい、彼氏がいてもいいから、これからは俺のことも見て欲しいんだ。ダメかな?」

男はの肩を掴んで詰め寄り、迫る──────



が、文字通り飛び込んできた青峰の出現によってすぐに引き剥がされた。

「黙って聞いてりゃナメたことしてんじゃねーぞ、このカスっ!」
「青峰くんっ!?ちょ、どうしてこんなとこに…って、また昼寝?」
「うるせーよ。、お前もお前だぞ。こんな奴サクッとフッちまえよ!チンタラしてっからヤローが付け上がるんだろーが!」
「な、なによ!ちゃんと断ったわよ。っていうか、覗き見してたの?」
「人が寝てるとこにテメーらが勝手に来たんだろうが。つか、言い方が温ーんだよ」
「…おい、お前何なんだよ、いきなり割り込んできて藪から棒に…今は俺が彼女と話してるんだ」

一人置いてけぼりをくらっていた男は、頭一つ分は有に自身より背の高い青峰に果敢に挑むも、それは青峰の苛立ちを更に煽るだけに過ぎず、鋭い眼光が彼を射抜いた。

「なんだぁ?…テメーまだ居たのかよ。…失せろ」
「なっ!」
「いいか?コイツは俺の女なんだよ。テメーの入り込む余地なんてもんはゼロだ、ゼロ!!」

青峰はすぐさまの手を取り、グッと抱き寄せると、そのまま顎先を捉え唇を塞いで見せた。 は驚くのと人前での行為に抵抗しようとするが青峰がそれを許さない。 暴れるを余所に深く、深く口付けを続けた。 漸く唇が離れる頃にははスッカリ力が抜けてしまい、荒げる吐息と蒸気する顔でふらつく躰を青峰に委ねていた。 眼前で見せ付けられた男は愕然とした。

「…分かったか、タコ。テメーみてーなヤローにはやらねーよ。…これで最後だ……目障りなんだよ、失せろっ!」

後ずさり、舌打ちを残して男は屋上から去っていった。 腕の中ではが顔を真っ赤にさせて青峰の胸に顔を埋めていた。

「もぅ…青峰くんのバカ……人前で、あんな…」
「なんだよ。追っ払ってやっただろ?」
「だからって…」
「いいじゃねーか、セックスしたわけじゃねーんだし」
「バカっ!!」
「…っんだよ、バカバカうるせーな…」

そう言って再び大きな手がの頬に添えられた。 今度はさっきのような乱暴なものではなくゆっくりと近付き、触れるだけの喋むようなキスを何度も繰り返し、徐々に、徐々に深くなる。 蕩けてしまいそうな感覚には青峰の広い背中に両の腕を巻きつけた。

「…なぁ~、なんかスイッチ入った。…ヤッとくか?」

事も無げに言う青峰に、はもう一度「バカ」と呟いた。




* E N D *


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