■「愛」だけで言い表せない
「ただいま」 イッキは誰かの待つ家に帰るのがこんなにも喜ばしいこととは思っていなかった。 「おかえりなさい」 優しい声が迎えてくれる。 それだけでどんなに疲れて帰ってきても、心が満たされていくのだから不思議なものだ。 そして、この上ない幸福だとイッキは出迎えてくれたをキュッと抱き締めた。 「っ!?イッキさん?…」 「やっと君に触れられた」 「そんな…今朝だって……」 「でも、日中はずっと離れ離れだったでしょ?」 クスクスとおどけてみせると、いつまで経っても慣れないは頬を染めながら微笑み返した。 愛しくて、片時も離れ難いと思える相手が現れるなんて…少なくともイッキには無理だと、期待することすらなかった。 そういう星の下に生まれたのだととうの昔に諦めていたというのに、今ではを手放すなんて想像もできない。 学生時代はアルバイト先で一緒になるくらいだった。 我ながらどうしようもなく気まぐれで…最低な始まりだったと思う。 けれど、次第にバイトであっても共に過ごす時間が待ち遠しくなり、同棲を始めてからはが傍にいるのが当たり前になって、それでも一緒に過ごす時間の幸せをもっと欲しがるばかりになっていた。 将来を誓い合い、結婚をしてもそれは変わらなかった。 「僕はね、君とだったらずーっと触れ合っていたいって思ってる。君と離れてる時間は寂しいけど、仕事の後に君が待ってると思うから頑張れるんだ。なのに、寂しいと思っているのは僕だけなの?」 「そ、そんなことないです。…私だって早くイッキさんが帰ってきてくれないかなって…」 「フフッ、本当に君は可愛いね…ねぇ、愛してるよ…」 そっと重ねた唇は、最初は触れるだけのものだったが、何度も何度も角度を変え、重ねる度に深くなっていった。 「っん、ぁ…イッキさ…っぅん…」 「…っん…ぁ…ごめん。と居るとつい手加減できなくなる。こればっかりは直りそうもないな…」 そう言いながらの頬にチュッとキスを落とすことを忘れない。 は真っ赤になりながらイッキの腕に自分のそれを絡ませた。 「もぅ……私も、大好きです」 見上げてくるの目が優しく微笑む。 本当はもっと目茶苦茶に彼女を抱いてしまいたいのに、その瞳を見ると自然と落ち着いてしまう。 もっと優しく触れてあげたい。 もっと彼女の笑顔が見たい。 もっと彼女に愛されたい…… 変な欲ばかりが出てきてしまう。 けれど愛しい。 を愛し、に愛されることこそが今のイッキにとって何よりの『悦び』であり『幸せ』なのだ。 ■戻る |