■仲良し親子(仮)
縁側に腰掛けたは、腿と胸にのしかかるそこそこの重みにも大分慣れてきた。 少し視線を見下ろせば、胸元で規則正しい寝息を立てる今剣の愛らしい寝顔に思わずは顔を綻ばせた。 遠征から帰った今剣は嬉しそうにその時代の話を毎回訊かせてくれるのだが、今回は長期遠征だったこともあって普段よりもに甘えたがり、ちょこんと膝に乗ってきた。 「えへへ~、ねぇーこのままおはなししてもいいでしょう?」 「もぅ…しょうがないわね。今日だけだよ?」 「わーい!…ふふっ、あるじさまっていいにおい…それにふわふわやわらかくって…きもちいいなぁ…」 疲れていたのだろう。 今剣はの胸に頭を凭れると間もなくして眠ってしまった。 気持ち良さそうに眠る姿を見ては無理に起こすのも可哀想になってしまい、は暫くオロオロと悩んだが、こういう時に限って誰も近くを通る気配もない。 仕方なく起きるまで暫くこのままで居ようと決めたのが数刻前の出来事だった。 小さな身体とはいっても力の抜けた人の重さはそれなりに重たい。 もちろん、耐えられない重さでもないが長時間同じ姿勢で座っているとどうしても尻や腰が辛くなってくるものだ。 何度か座り直したりしながら眠る今剣を落とさないようにそっと小さな背中を抱き締めた。 「おっ!なんだぁ~、その羨ましい光景はっ!!」 突如後ろからから聴こえてきた声には背中をびくりと跳ねさせた。 そっと振り返ると着流し姿の岩融がと抱えられた今剣を見下ろしていた。 「岩融…ふふ、可愛いでしょ?でも、起きちゃうから静かにしてあげてね」 は人差し指を唇に当ててシーッと岩融に促した。 ふむといった岩融はその場にしゃがみ込むとに抱きかかえられた今剣の頬をツンツンとつついた。 「いやいや、確かに今剣も愛らしいがそれよりも…このように主の胸で眠るとはなんとも羨ましいと思ってな。できるなら俺が替わりたい」 「な、何言ってんの…もぅ…」 「がはははは、流石に俺の身体を主に抱えてもらうわけにはいなぬな~主を潰してしまいかねん」 そう言ってまた豪快に笑う岩融を見上げると、もつられてクスクスと笑を零した。 「それにしてもまぁ気持ちよさそうに…よく眠っている」 「うん、遠征で帰ってきたばかりだったから疲れちゃったみたい」 「そうしているとまるで親子のようだな」 「えっ!私、こんな大きな子供がいるように見えるの!?」 思わず声をあげたに、今度は岩融がシーッと促しも慌てて口を手で覆った。 チラリと今剣を見るとまだすやすやと夢心地のようでほっと安堵する。 「そんなに驚くようなことでもあるまい。今の主の歳頃を考えれば子がないどころか伴侶もいないとは寧ろ遅いくらいだ」 「そう…なの?」 「ああ、主の時代におる男どもはよほど馬鹿が多いのか…女を見る目がないのだな。…俺なら放って置かぬわ」 ニヤリと口角を釣り上げる岩融にはかぁっと頬を染め、またそういうことを言うと岩融を諌めるが、本当のことなのだら仕方あるまいとまた豪快に笑いとばされた。 岩融の本気とも冗談とも分からない言葉には翻弄されっぱなしになるのは今日に始まったことではない。 彼の大雑把に見えて実のところ掴みどころのない一面も、面倒見のいいところも知っているは岩融の軽口くらいで気を悪くすることはない。 審神者であるに対して主だからと一歩引くような振る舞いもない岩融には寧ろ好感さえ覚えるが、からかわれるのはやはりちょっと悔しい気持ちになるものだ。 「ん?何を剥くれているんだ主」 「別に…」 「ふーん……おお、そうだ!主、いいことを思いつたぞ」 ポンと手をついた岩融は勢いよくスっと立ち上がり、一体何が始まるのだろうかと目で追いかけるの真後ろでまた腰を下ろした。 どうしたの?と尋ねるより早く岩融の逞しい両腕が伸びてきたかと思えばそのままキュッと抱き締められた。 「こうすれば二人まとめて俺のも…あ、いや…主も楽だろう?」 「なんか今とんでもないこと言いかけてた気が…」 「細かいことを気にするな。な?」 回された腕の所為で岩融の方を振り向けないは、耳許で囁く声に背筋をぞくぞくさせた。 放してと言ってみたもののやっぱり笑い飛ばされるだけで聞き入れては貰えず、は諦めて岩融の気の済むようにさせることにしたのだが、はっきり言ってこの状況は酷く心臓に悪い。 「…なぁ、主」 「今度は何?」 「こうしていると傍目からはきっと仲睦まじい親子に見えると思わんか?」 「なっ!……っ!?」 耳朶を軽く食まれた感触に顔から火が出る思いをしたが、しっかりと抱き込まれた身体はピクリとも動けずにいた。 ヤキモキするを余所に岩融はまた豪快に笑った。 ■戻る |