■絶対幸せにする
付き合い始めて3年。 実は半年前からずっと用意していた婚約指輪を笠松は漸くに渡すことができた。 を家に呼ぶのもこんなに緊張するのは初めて連れてきた時以来かもしれない。 渡すべき物は渡した。「結婚しないか」と、何の飾り気もないプロポーズになってしまったが、からは快く『Yes』の返事もその場で貰えた。 これでとの未来を約束できた。 そのはずなのだが、安堵する気持ちよりも、何とも形容し難い高揚感と、改めて婚約者となったを見ると緊張感が募るのだった。 「笠松くん、どうか…した?」 「…いや、その……取り敢えず、適当にかけてくれ…俺、着替えてくるから…」 「うん……」 は促されるままソファの横に持っていたバッグを置くと、カーペットにちょこんと腰を下ろした。 笠松の家に来ると必ずこそに座るそこは、すっかりにとっての定位置になった場所だ。 帰り掛けに立ち寄ったコンビニで買ったビールやチューハイ、つまみなどを小さなテーブルに並べていると奥の部屋からスウェットに着替えた笠松が戻って来た。 まだぎこちない空気を纏ったまま、笠松はに気付かれぬようギュッと拳を握り、いつも座るの向かい側ではなく、隣に腰掛けた。 一瞬、驚いたような顔をしただったが、すぐにふわりと微笑んだ。 「笠松くん、今日は本当にありがとう。私ね、凄く嬉しい……」 「お、おう…」 「でもさ、なんか…やっぱり照れるね」 「ああ…」 笠松はガシガシと頭を掻き、一瞬視線を泳がせるとテーブルに置かれた缶ビールを一つ手に取った。 「取り敢えず…飲まねーか?お祝い…っつーには味気ないけど、折角だし…」 「う、うんっ!」 タブを引き、プシュッという炭酸の抜ける音を立てると、二人は小さく「乾杯」と言って缶ビールとチューハイをコツンと合わせた。 笠松は一口目からゴクゴクと喉を鳴らしてかなりの量を飲み下し、勢いよくテーブルに置くと、すぐさまの手を取った。 「っ!俺…俺は…その…お前は嬉しいって言ってくれるけど、口下手で、気の利いた事とか言ってやれねーし、の事も大事にしてーって思ってるけど、お前が何か悩んだりしてても多分気付いてやれねーバカだと思う。でも、お前と一緒になりたいって思ってた…ずっと……その為になら俺はどんな事でも頑張れる。絶対を泣かせたりしねー。一生掛けて大切にする。だから…これからも宜しく頼むな?」 はにかんだぎこちない笑顔になってしまったが、笠松は漸くに笑顔を向けることができた。 ずっと伝えたかった思いと、これから先への誓い。 笠松は手の中にあるの左手に嵌る 「笠松くん……」 「ちゃんと、言っておきたかったんだ。決意表明っつーか、けじめっつーか……」 「うん、ありがとう。…私も、同じ気持ちだよ。…大好き……」 どちらともなく距離は縮まり、そして唇が重なった。 それが初めて交わす口付けのように。 或いは、永遠を誓う口付けのように。 今までの時間が終わり、新しい日々の始まりを感じた瞬間だった。 笠松はの細い肩を抱き寄せ、そっと胸に閉じ込めた。 華奢な躰だ。とても頼りない。けれど、柔らかく暖かな温もりと鼓動が愛しくてたまらない。 身を屈め、肩口に顔を寄せるとの躰がぴくりと跳ねた。 笠松は抱き締める力を強め、決して離しはしないと無言で伝える。 小さな耳許に唇を寄せ、きっと今しか言えないであろう『絶対の誓い』を囁いた。 ■戻る |