■甘え慣れていない
付き合っている恋人同士といえど、誰しもがずっと一緒にいられるとは限らない。 もまた、付き合いだしてから数カ月経つのだが、バスケやらモデルの仕事やらで忙しい彼氏を持ったが為に中々二人の時間が取れず、休日にこうして 彼の部屋に招かれるのもかなり久し振りなのだ。 ソファに二人並んで腰掛けて、借りてきたDVDを眺める。 そんなまったりとした時間が嘘のように心地よかった。 隣をチラと見れば憎らしい程に整った黄瀬の横顔。 お世辞にも恵まれた容姿とは言えないだから、よくこんな人と付き合えたものだとつくづく考えてしまう。 それでも、やっぱり大好きな気持ちには変わりなくて、隣に居るだけで幸せだと思えるのだから充分だった。 「っち、飲み物足りてるッスか?」 「うん、ありがと。大丈夫だよ」 付き合ってみて分かったのは、黄瀬が意外と世話焼きだということ。 単にフェミニストなのかとも思ったが、実は結構人の目やら仕草に敏感なのだ。 観察力が鋭いのだろう。 だから、誰よりも気が付くし、その対応も無駄がなくてスマートなのだ。 おまけにこの容姿なのだから、様にならない訳が無い。 「やっぱコレ、映画館のでっかいスクリーンで観たかったッスね~」 「しょうがないよ。あん時は涼太が急に仕事入っちゃったんだし。でも、こうして二人で観れたわけだし、良かったじゃん。また今度、面白そうなやつあったら一緒に見に行こ?」 2時間弱の映画が終わり、何気なく言葉を返すと、思いの外不貞腐れた顔をされてしまった。 「ぅ~…っちは物分り良すぎッス」 「そんなこともないと思うけど…」 「いーや、そんなことあるんスよ~。普段だって殆ど一緒に居れなくって寂しいのに…なんか俺だけっぽい感じするッス」 「えっ!なんでよ~。私だって、今日久し振りに涼太と一緒に居れて嬉しいよ?」 「足んないッス……」 「は?」 大きな駄々っ子が降臨した。 そんなジト目をしてたらブサイクだよ~…と言えるような雰囲気でもなく、どうやって黄瀬の機嫌を戻そうかと思案していると、は急に腕を引かれ黄瀬の腕の中に抱き締められた。 「わぁっ!…っと、もぅ~涼太、急に危ないって…ば……っぅん、んん…」 見上げた途端に塞がれた唇。 押し付けるような口付けに驚いて、は思わず黄瀬の服をキュッと掴んだ。 「ホラ、やっぱ俺ばっかっち不足で狡いッスよ」 「バカ…意味わかんない……」 「っちは俺と会えない間、寂しくなかったんスか?」 「そんなわけないでしょ…私だって…その…涼太に会いたかったよ」 思っていても、いざそれを口にするとなると想像以上に羞恥心を掻き立てられる。 「じゃあ、なんでいつもそれ言ってくれないんスか?」 「だって、別に涼太が悪いワケじゃないし…ちゃんと時間取れる時はこうして会ってくれるし…我が儘言って迷惑かけたくないもん……」 消え入りそうな声で呟けば、黄瀬の抱き締める力が強くなった。 広くて温かい黄瀬の胸に閉じ込められたはそれだけで躰が火照った。 「迷惑でもなんでも、俺はもっとっちに我が儘言って欲しいんスよ。大好きな彼女なんだから、うんと甘やかしてあげたいんス」 「これ以上…?」 「そう。今なんて全然足りないッスよ。だからさ、言ってみて?っちは俺に何して欲しいんスか?」 甘い囁きも、優しい温もりも、限りない愛情も全部、黄瀬は無条件でくれるのだ。 今以上だなんてには想像できなかった。 少なくともこんな、心臓が五月蝿い状態でまともに考えろなんて方が無理な話なんじゃないかとさえ思った。 「いきなり言われても困る…」 「うん。いいよ」 「良くないでしょ…ねぇ、じゃあ、取り敢えず離して?」 「ダーメ。却下。はい、次は?」 「は?もぅ~分かんないってば…」 「今日はっちを甘やかすって決めたんスからちゃんと甘えてくれるまでこのままッスよ♪」 言いながら、黄瀬は喋むようなキスの雨を降らせてきた。 は何も考えられなくなり、黄瀬に身を委ねるのが精一杯だった。 ■戻る |