■気が済むまで抱きしめて



「ただいま」

出張から帰ってきた夫の声には夕食の支度を放り投げ、玄関へと駆け寄った。

「おかえりなさい、千尋」
「うん、ただいま」

少し疲れた表情をしているが、無理もない。 急な出張だった上に、出張前から残業続きで躰は疲弊しきっているのだろう。

「お疲れ様。ごはん、もうじきできるからね。先、着替えてきちゃって」
「ん…後でいい……」
「ぇ…って、ちょっ、ちょっと、千尋っ!?」

急に後ろから抱き竦められ、は驚いて振り向くと、そのまま唇を塞がれた。

「っん…ぅんっ…」
「…ぁ…っ、…っん…」

久し振りのキス。
決して広くはない廊下の壁に追いやられ、貪るように舌を絡め合う。 息吐く暇もない激しいキスにはあっと言う間に力が抜けてしまい、ズルズルと壁を沈みそうになるが、すぐに黛が腰に手を回しだきとめた。
力強い腕にぴたりとは躰を寄せた。 ここからでは緩めたばかりのネクタイしか見えない。 表情を伺うように視線を向けると、熱っぽい目をした彼と対峙する。

「千尋…もぅ~、帰ってきて早々どうしたの?」
「…無理。足りない……」

捉えられた顎先に反応するより早く再び口付けられた。 歯列を割って捩じ込まれる黛の舌先は、の口内を暴れまわり、追いかければ簡単に舌を絡め取られ、離れたかと思えば今度は上顎を執拗に責められる。

「ぅんん…っぁ…っん…」
「はっ…ァ、…っん」

とろんと蕩けるような心地の中、ギュッと強く抱き締められ、久し振りの黛の香りがの鼻腔をくすぐる。
耳許に唇を寄せられ、熱い吐息が囁く…──────



、会いたかった…
もう限界なんだ…ベッド行こう?……



こんなにも求められて嬉しくないはずはない。 黛の胸の中にすっぽりと収まるはこくりと頷いた。 はお返しとばかりに広い背中に腕を伸ばし、そっと抱き締め返すと、更に強く抱き竦められた。 少しでも躰を離す事を拒むように。 そうして、ベッドへ行く前に暫くの間狭い玄関先で二人、抱擁とキスを交わし続けた。




* E N D *


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