■恋心が芽生えたのに気付いた



来る度に座るいつもの席。






彼はそこにいた──────






背がすごく高くて、その所為か少し大人びた印象だが、彼が秀徳高校の制服を着ているのを見れば高校生なのだと知る。 のバイト先である喫茶店に偶に訪れる彼をつい目で追ってしまうようになったのはいつの頃からだったかもう覚えていなかったが、初めて見た時から気になっていた。 そもそも彼のその身長にまず目が留まる。 少し神経質そうな…それでいて、黒縁のメガネの奥には女のが悔しさを覚える長い睫毛に覆われた深い瞳、整った顔をしている…そう思った。 けれど、その恵まれた容姿に相反して、彼は少し変わっていた。 左利きサウスポーらしい彼が持つカップを見ると、何故か指の全部に巻かれたテーピング。 包帯ではないところから怪我ではないようだが、何かの保護が目的としても異様に目立つ。 加えていつも何か変な物を持っている。 ぬいぐるみだったり、おたまだったり、双眼鏡に縦笛…… 思いつく限りでも到底人がおおっぴらに持ち歩く物ではないし、統一性が皆無だ。 危険物は見たところないし、店に迷惑が掛かるような事も勿論ないので店長を始め、や他のスタッフも何も言わないが、彼は目立つ常連客である事は間違いなかった。

「ご注文は如何なさいますか?」
「ブレンドを…」

短い会話…にもならない単なる形式的なやり取り。 もっと色んなことを聞いてみたいのに、今は勤務中。 働いている時にしか彼に会うチャンスはない。 しかも、偶に。「次はいつ来るの?」なんて聞ける間柄じゃない。



従業員と客。

それだけの関係。

彼の名前も知らない。






──────知りたい。






注文を終えると彼が鞄の中から取り出した本が一冊。開かれた。 いつも違う本を読んでいる。 その本のどれもがの知るもので、本当に些細なことだけど、それがすごく気になって、誰にも知られる事のない宝物を見つけた気分になった。 年下で、ちょっと変わってて… いつも決まった席に座るところや、持ち物や仕草を見ると少し神経質そうだと伺える。 口数は少ない。 でも、優しい声色……



は気付けば彼に惹かれていた。




* E N D *


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