■取られたくないって、恋人でもあるまいし



人は成長と共に変化する。 体型や顔つきなど目に見える外見的なものから、考え方や接し方など内面的なものまで様々ある。 特に高校生ともなれば多感な時期に差し当たっており、親兄弟や近しい人間に対して上手くコミュニケーションができなくなる時期がある。 宮地もまた例外ではなく、ある少女との距離に悩んでいた。



幼馴染の──────



2才年下の彼女とは家が対面といめんで、幼い頃から親同士も親交があり、よく一緒に遊んでいた。 けれど、宮地が中学生になった頃から学校は当然別々、部活などもあって生活リズムが基本的に合わなくなり、顔を合わせる機会もぐんと減った。 だが、今年の春、は秀徳高校へ入学してきた。 真新しい制服に身を包んだを見掛けた時、宮地の胸がトンと揺らいだ。 そして思い起こされるのは懐かしい日々の思い出と、淡い想い… 今更だ…と自分に言い聞かせて過ごしてきているが、校内でを見掛けるとどうしても目で追ってしまう自分がいた。 同じ高校に通っていても、相変わらず生活リズムは噛み合わず、目の前に住んでいても家の近所で遭遇することは全然なかった。 校内であっても遠くに見る程度で、すれ違ってもいない。 というか、すれ違いそうになる時は道を変えてやり過ごしていた。 『何故?』…宮地は自分でも分からないとしか言いようがなかった。 だから、一方的に見掛けるだけ。 彼女はきっと…同じ学校に居る事くらいは知っていたとしても気付いていない。 それでいい、と思っていた。 何をどうこうしたいという明確な気持ちに至っていない今、彼女を目の前にしても何を喋ればいいのか分からかなった。



ある日の昼休み。 宮地は購買にパンでも買いに行こうとしていた時、窓から校舎裏への向かう二つの人影を捕らえた。 お決まりの告白スポットとでも言うべき場所。 そういう話に疎い宮地でさえ知っているくらい有名なことだ。 問題はその二人だ。 男子生徒の方はよく知らない奴だったが、女子生徒はどう見てもだった。 見間違える筈がない。そう思う前に宮地は校舎裏へと駆けていた。

「…ったく、何やってんだ、俺!!」

考えるより先に体が動いていた。 息を切らして辿り着いた校舎裏へと続く細い通路で、そっと奥を覗き込めばさっき見た二人が向かい合って何かを話していた。 どうやら男からへ想いを告げるらしい雰囲気を察すると、宮地はギュッと拳を握り締めた。 ドンっとひとつ壁を殴りつけると、それを切欠とばかり宮地は二人の前に飛び出した。

「ぅわっ!!ちょっ、ちょっと、あんた誰だよっ!!」
「…ぇ?清志くん!?なんで?……」

当然のように二人は急な乱入者に驚き、声を上げた。 久し振りに間近で見ると変わらず自分を呼ぶ声に宮地は思わず笑を零した。

「邪魔してワリーな。でも、コイツの事は諦めろ」
「なっ!いきなり出てきて何なんだよ!!」
「あ゛ぁ?ウルセーよ。他のヤローなんかに手ぇ出させねぇって言ってんだ。…失せろ」

ギロりと睨みを効かせると男子生徒は脱兎のごとくその場を逃げ出した。 呆然とするの存在をあろうことかちょっと忘れていた。

「清志くん…ねぇ、どうし──────」
「──────悪るかった!偶々お前たちがここに来るの見て…気付いたらブチ壊してた」
「ビックリしたよ…けど……ちょっと嬉しかった。ホントはね、断ろうと思ってたんだけど、どう言っていいか分からなかったから」
「…そ、そうか。…じゃあ、俺、そろそろ行くわ……」

しでかしてしまった事の気まずさから、まともにの顔が見れないまま、宮地はその場を去ろうとした。 が、ツンっと袖口を摘まれ足を止めた。

「…さっきの…って、アレ、私はどう受け止めたらいいの?」

咄嗟に口をついた言葉の数々を思い出せば顔から火を噴くほど熱くなった。

「な、なんでもねーよ…」
「じゃあ、ウソだったの?」
「ばっ、違っ!!…違ぇーよ……」
「じゃあ何?」



押し寄せる沈黙──────



それが長かったのか短かったのかは分からないが、宮地には時が止まったように思えた。 ザワリと辺りを風が通り抜け、木々が騒めくのを聴いた。

「…を取られたくなかったんだ……」

静かにポツリと呟いた言葉を残し、今度こそを残してその場を立ち去った。 暫く駆けたあと、中庭に出ると宮地は空を仰ぎ、右手で顔を覆った。

「アホか、俺は…なんだよあれ……」

前髪をクシャりと握り込むと日射しが痛くてギュッと目を瞑った。 ハァーっと重たい溜め息が吐いて出る。 先程のような風がひと吹き宮地の頬を掠め、その心地よさに漸く落ち着きを取り戻した頃、少女が一人、息を切らせて駆け寄って来た。 宮地はその姿を見て瞠目した。




* E N D *


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