■これは本当に運命なのか
初めて見たのは休み時間の廊下ですれ違った時。 森山はひと目で恋に落ちた────── と、後に何度もに力説する事になる。 だが、悲しいことに森山の惚れっぽい性格は少なくとも学年中にちょっとした噂になるくらい有名で、もどうせ軽いだけの奴だろうと最初は気にも留めていなかった。 初めて話し掛けられたのは高2の文化祭。 バスケ部が出していた屋台で焼きそばを友達と買った時だった。 最初はただの接客だったはずが、「実は前から気になってました」とか「良かったら友達から始めませんか?」などと捲し立てられたのを覚えている。 結局困っている所を笠松が横から一発、鉄拳制裁して事は収集された。 その時も逃げるようにして立ち去ったので、どうせ諦めるだろう…そんな風には軽く考えていた。 ところが…────── 「さん、おはよう!こんな所で会うなんて奇遇だね♪」 「お、おはよう…」 堪えるどころか、次の日から早速声を掛けられた。 森山は朝練を終え、急いで着替えたのかシャツのボタンを掛け違えた姿で、の下駄箱がある昇降口にいた。 確か、森山のクラスは反対側の昇降口を使っているはずだが、何故か居る。 しかも、もうじき予鈴が鳴ってしまうのに、反対側の校舎まで行くとなるといくらバスケ部で足を鍛えているからといっても到底間に合わないだろう。 「急がないと遅刻しちゃうよ?」 「あぁ~…俺のことを心配してくれるんだ!」 何故かとても嬉しそうな顔をしているが、それどころではないのはも一緒。 「いや、そういう事じゃなくて…って、私も急ぐから、じゃあね」 呆れながらも構っている余裕はないと、はその場を後にした。 それからも事あるごとに森山に遭遇した。 けれど、一方的にに付き纏うわけでもなく、挨拶だけが殆どだった。 「おはよう」と言われて「おはよう」と返す。 「お弁当美味しそうだね」と言われたら「ありがとう」と返す。 「これから部活行ってくるよ~」と言われたら「いってらっしゃい」と送り出す。 本当にそれだけの会話で、初対面の印象が凄まじかっただけに、正直は拍子抜けした。 そして、とある日。 いつもの「おはよう」は聞こえなかった。────── その日、は森山と遭遇する事はなく、一日が過ぎた。 なんてことのない一日。 代わり映えのない平和な日常…その筈が、何か足りない。 ポッカリと穴の空いたような胸にそっと手を当てると、自然と溜息が零れた。 「…なんだろ…?」 ふと、呟けば自然と浮かぶのは森山の顔と「おはよう」という声。 笑顔、それから…それから… ──────『運命』…?────── 「…まさか……ね…」 後から知ったのは、その日バスケ部は公式戦の為公休日だったという。 そして、次の日から森山の「おはよう」から始まる朝が戻った。 が返す言葉は、その日を境に少しずつ増えていくのだが、本人はまだ気付いていなかった。 ■戻る |