■人肌が恋しくなるお年頃
部活が終わってからもう随分と時間が経った。 もう部員もともう一人を除いて帰ってしまった。 けれど、は未だ帰れずにいる。 原因は────── 『彼氏がしがみついてて離れない』から────── 体育館の片隅で二人、紫原の座る両脚の間にはちょこんと収まり、後ろからギュッと抱きつかれているのだ。 きっと傍から見れば微笑ましいカップル像として映るのだろう。 実際の所、と紫原の交際は好調と言える。 でも、そういうことじゃないのだ。 「ねぇ、敦…もぅ帰ろうよ~」 「ん~…もうちょっと~…」 もぞもぞと抱き締める腕を動かすが、抱き直す程度で紫原は動こうとしない。 このやりとりももう何度目か… 身動きの取れないは仕方なく紫原の腕に凭れ掛かりその温もりに身を委ねるのだ。 そして、困ったことにこれがまた心地いい。 「帰れなくなっちゃうよ?」 「いいよ。ちんと一緒なら」 躊躇いのない即答には息が止まる思いをした。 不意打ちの様なストレートな物言いは反則だ。 危うく『それならいいか』と思いそうになるから本当にマズイ。 「ちんはさぁ~もぅちょっとちっちゃくても良かったよね」 「は?…な、何なの?いきなり…」 「だってさ、こうやってるとスゲェ気持ちいいし、いい匂いするし、俺、超癒されるんだよね~」 「そ、それは…どうも」 「だからさぁ~もうちょっと持ち運び易いサイズだったらなぁ~って思うんだよね~。そしたらいつでもちん抱き締め放題だし~」 「持ち運びって…私は荷物なの?」 「違うけど、何か便利じゃね?って思っただけ。例えばの話だってば~」 の首筋に顔を埋める紫原の髪が当たってくすぐったい。 じゃれつく彼は体躯こそ2メートルを超える長身だが、これでも結構甘えたがりだったりする。 人前で必要以上に近づく事は殆どないが、こうして二人きりになればいつも抱きついてくるのは紫原の方だった。 彼氏にスキンシップを求められるのは悪い気はしない。 でも、色気のな話をすれば、まずは何より重たい。 そして、ずっと座っている体育館の床は冷たいし、固くて、お尻が痛い。 「ね~ちん」 「ん?何、帰るの?」 「ん~そうなんだけど、違う…っていうか……」 「何それ?」 ──────「今、すっごくエッチしたい」────── 耳に直接囁く声にの躰は一気に熱を増した。 途端にジャージ越しの温もりでは足りない気がしてくるのだから不思議だ。 首筋にチュッとリップ音がすれば、切なくて。 「…敦の部屋、行ってもいい?」 躰中に紫原を纏っていれば、ももっと欲しくなるのは必然で… 甘えたがりな彼に便乗して巻き付く長い腕をもキュッと抱き締める。 首筋では、紫原が嬉しそうに微笑む気配がした。 ■戻る |