■繋いだ手から愛を



久し振りのデート──────…って言ったらきっとシンは照れてぶすくれてしまうだろうけれど、は兎に角二人で出掛けられるこの時をずっと楽しみにしていた。 受験を控えているシンにあまり我が儘は言えない。 シンは、何も言わないに「して欲しいことはちゃんと言わないと分からない」と言ってくれるけれど、そういうわけにもいかない。 この先のシンの人生が掛かっているのだから、受験にはベストの状態で臨んで欲しいし、その志望校がの通う大学だと聞けば尚更だ。 できる限り邪魔にはなりたくない。 それが、恋人だからなのか、幼馴染みだからなのか、少し前のは気持ちの在り様にも戸惑ったりしたけれど、今なら分かる。



『大切』だから、幸せを願うのだ──────と。



連絡も最小限しかしないように気を付けているから、会おうと思えば会える距離にいても意外とお互いが何をしているのかも分からない。 は大学に行くか、バイトに行くか、家に居るかの三択くらいで殆どの毎日は構成されていくので、きっとシンにはの行動は予想がつくのだろう。 けれど、からシンの行動は『勉強』しか思い当たる事柄がない。 学校や塾、家や図書館に行くのは勉強のため。 偶のメールや電話でも、聞く話はいつも勉強していたとか、これから勉強するとかばかり。 頑張っているシンに「会いたい」とか「次はいつ会える?」とか、言ってみたい我が儘もつい、口を噤んでしまう。

「さっきから何考えてんの?」

ボーッとして見えたのだろう、シンが呆れたような顔でを見やる。

「お前、ただでさえどんくさいんだから、呆けてるとまた転ぶぞ?」
「そんな、…最近は転ばなくなったもん……」
「あっそ…」

ならいいけど、とシンは素っ気なくあしらい、一人でスタスタと先へ進んでしまう。 一緒に歩いているのに足のコンパスからして違うシンとは歩調を合わせるのもには一苦労だ。

「シン、待って……」

小走りにシンを追い掛けると、数歩行った所でつまずいてしまった。 転んだりはしていないが、気付いたシンは振り返って目を見開いた。

「脅かすな、バカ。ってか、言ったそばからコケてんなよ」
「ゴメン」
「ったく…で?怪我とかはない?」
「うん、大丈夫。ちょっと躓いただけだから」
「お前は本当に危なかっしいのな」
「…じゃあ、手…繋いで?転ばないように手、繋いで欲しい」
「はぁ?ガキかよ…」

シンは人前で手を繋ぐのを嫌がる。 そんな恥ずかしい真似はしたくないと、これが結構頑なだ。 家にいる時は突拍子もなく抱き締めてきたり、キスしたり仕掛けてくるのはいつもシンの方だというのに、手を繋いで歩くのが恥ずかしいなんてにはサッパリ理解できなかった。
でも、偶になら…



────── 一緒にいる距離をもっと縮めたい。──────



「ダメ…?」

恐る恐る上目遣いにシンの様子を伺うと、盛大な溜め息。 そして、おずおずと差し出された手。

「隣で転ばれて怪我させたくないしな」
「シン…ありがとう」
「…今日だけだからな」
「うん」

繋いだ手が二人の温もりを分け合う。 昔は同じか、シンの方が少し小さいくらいだったのに、今はよりもずっと大きくて、温かくて、大好きなシンの手。 キュッと握り締めると自然と指を絡ませた。
離れないように。
もっと、もっと、近くに感じられるように……




* E N D *


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