■どれだけ虚勢を張ってもそれはすぐに見破られる
シンと会える日はそう多くない。 受験を控えているわけだし、成績も今が正念場といったところらしいのでとても頑張っているシンの姿を見ればもそれを応援する他ない。 電話やメールも気を遣ってどうしても自分からはできず、近くに住んでいると分かっていてもにも最低限学校やバイトもあるので上手いタイミングが見つけられず中々のすれ違い様だ。 時々、本当に付き合ってるなんて言えるのか分からなくなる時がある。 でも、そんな不安をシンに相談なんてしたらきっと困らせてしまう。 シンだってのことをちゃんと想ってくれている。 だらこそ受験勉強だって頑張ってるのに、ここでが勝手に寂しがったりしたらシンの頑張りを信じていないようにも思えて、それだけは絶対にダメだと自分に言い聞かせた。 昔はシンを守ってあげなきゃと思っていたのに、今はまるで逆。 いつからだろう…シンがの背を抜いて、逞しくて頼り甲斐のある男の人になったのは。 会えない時間がもどかしくて、かと言って、会えば緊張してしまうなんて本当にいつになったら慣れるんだろうか。 「シン…どうしてるかな…」 ぽつりと呟き見上げた部屋の壁掛時計はPM7:24を差していた。 この時間ならまだ予備校だろうか。 シンの頑張りもあって少しずつ成績はシンの志望校であるの通う茗荷大学合格安全圏内に近付いていると聞く。 嬉しいことだが、シンが頑張る分だけの不安は募っていった。 目を閉じるだけでシンの声も温もりも面白いほど鮮明に浮かんでくる。 けれどそれは偽物に過ぎなくて、目を開いた瞬間に待ち受けているのは空虚。 「会いたいな……」 はベッドにポスンと倒れ込み、何もない白い天井を見上げて溜息を吐いた。 ──────ピンポーン────── どれくらい突っ伏していただろうか、突然鳴ったインターホンの音には重たい身体をむくりと起した。 ボーッとする頭も覚醒しないまま玄関へと向かい、チェーンロックを外し、鍵を開け、ガチャリと開いた扉の向こうに居たのはシンだった。 驚きのあまり言葉の出てこないは目を丸くした。 「…ったく、今絶対俺だって確認しないで開けただろ?」 「へっ?…あ、うん…つい…」 「バカ、危ねぇからちゃんと相手見てからにしろっていつも言ってんだろ」 「…うん、ごめん……」 久々に会うはずの恋人は再開の喜びよりも先に毒吐いてきたのにもびっくりした。 いや、シンの言っていることはごもっともなのだが…もうちょっと何かこう、感動めいたものを期待していたは面食らってしまった。 そもそも今目の前に居るのが本当にシンなのかすらちょっと信じられない気持ちだった。 「シン…どうして?予備校は?」 「はぁ?お前寝ぼけてんのかよ…今何時だと思ってんだ?」 「え…7時半くらい?」 最後に見た時計は確か半より少し前だったのを覚えている。 それから少しベッドで突っ伏していたから多分そんなもんだろうかと答えたら、シンからは呆れたような溜め息が盛大に零れた。 「もう9時過ぎてる。俺、予備校帰りだし」 「えっ!ウソ…」 「ハァ…これだもんな。色々言いたいことあるけど…まぁいいや、取り敢えず中入れてよ」 「あっ、うん…どうぞ」 「うん、お邪魔します」 「──────っ!?」 ポンと頭に置かれたシンの手が優しくの頭を撫でた。 見上げればずっと見たかったシンの笑顔がそこにあって、思わずも顔が綻んだ。 目の前にシンがいる。それだけでの胸はいっぱいになる。 「…シン、会いたかった……」 「なっ!?おい、!おま…」 部屋に入るなりはシンの背中に抱きついていた。 恥ずかしさよりも先に躰が動くなんてシンにだけ… 少しでも早くこれが夢じゃないって確かめたくて、今までの不安をなかったことにしたくて、ただそれだけだった。 もっと年上らしく振る舞えたらといつも思う。 けれど、ができることと言ったらこんな子供じみたことばかりだ。 「…好きだよ」 「バカ、そういうのは…ちゃんと俺の顔見て言えよな」 振り返ったシンがそのままを抱き締めると、困ったような笑みを浮かべていた。 照れいるのかほんのり赤らんだ頬が、シンには絶対言えないけれどちょっと可愛いと思ってしまう。 は言われた通りもう一度「好き」と言おうとしたのに、それもシンからの口付けで叶わず、久し振りのキスに没頭している内にそれもどうでもよくなった。 ずっと胸の中に渦巻いていたモヤモヤもキス一つで嘘みたいにスっと消えていく。 「何?俺に会えなくてそんなに寂しかった?」 「…うん……」 「ならちゃんと言えよ。メールでも電話でも、あんだろ何かしら…」 「けど、言えないよ。シンの負担になりたくない」 「あのさ、俺は気持ち隠されて俺の知らないところでお前が不安がってる方がよっぽど困る。つーか、お前嘘吐くのヘタだからバレバレだし。それに…俺だって会いたかったに決まってるだろ?」 シンの前では何を繕っても簡単に見透かされてしまう。< もう全然敵う気がしない。 「ごめんなさい。それから、ありがとう。…大好き」 今度はキスに遮られることなく真っ直ぐ伝えた。 赤くなった顔で眉を顰めるシンは誤魔化されてる気がするだなんて心外なことをいうものだから、は少しムッとした。 誤魔化すも何もないのにとシンの頬にそっと手を滑らせ、そのまま首に腕を絡めるとは自分から唇を重ねた。 ■戻る |