■唇の味見
毎日の朝餉は決まってが用意していた。 刀剣達には主のする事ではないと最初の頃は止められたが、結局のところ料理をできる者がおらず、結局そのままの担当となった。 日々本丸にやってくる刀剣男子も増える一方で、大人数で囲む食卓は楽しい反面、その準備は中々に大変だった。 「おはよう、ちゃん。手伝いに来たよ」 「光忠さん、おはようございます。すみません、助かります」 燭台切光忠は本丸にやってきてから毎日食事の用意を手伝ってくれている。 炊事は特に趣味だからといってテキパキと働く光忠の手際も出来上がる料理も絶品だった。 「菜っ葉が食べ頃だったから採ってきたよ。汁物でもお浸しにするのも美味しいよね」 抱えた籠にはたくさんの食材。 どれも皆が大切に育てた新鮮な素材ばかりだ。 「皆に美味しく食べて貰えるように頑張ります!」 「惜しいな…」 「え?」 「折角なら僕だけの為に君が作ってくれるならもっと嬉しいのに」 背後から抱き竦められは躰を硬直させた。 「っ!?光忠さんってば、もぅ…すぐからかう…」 「ハハッ、真っ赤だね。からかってるつもりはないんだけど…残念。ここは喜んで貰えるように料理で挽回しようかな」 そう言ってから離れると、光忠は手袋を取り、腕まくりをした。 調理台に立つ光忠は凛としていて、軽やかな包丁さばきもまた様になっていた。 食欲を誘う出汁のよい香りが暖かな湯気となって立ち上る。 ご飯に汁物、煮物に佃煮、お漬物、お浸し。 簡単なものばかりだが、どれも栄養を考えられ、光忠が飾り切りもしてくれるので、見た目にも鮮やかな膳が揃う。 「ちゃん、そろそろいい 「あ、はい」 食器を並べていた手を止めて、はパタパタと光忠の元へと駆け寄った。 匙にひと掬いした汁物を一口飲むと、出汁の香るほっとするような味がした。 「うん、今日もすっごく美味しいです!」 「それは良かった。君のそういう顔が見たくて作っているからね。嬉しいよ」 光忠の隻眼が柔く微笑み、その優しい声色と相まって、は何となく気恥ずかしくなってきた。 あまり彼を直視していられず、思わず視線を逸らしてしまった。 気を紛らわそうと、出しかけていた食器の方へ踵を返した。 だが、戻ろうとしたの手は光忠によって掴まれた。 「ああ、待って。…僕も一つ味見をお願いしたいんだけどいい?」 「え…でも……───っ!?」 もう味を見るような料理はない筈…そう思った瞬間、光忠の唇がのそれに重なった。 驚いて目を瞑る事も忘れた。 一体何が起こっているのか理解するのも難しく、パニック状態のが反射的に光忠を押し退けようしたが、彼はびくともしなかった。 頬に添えられた光忠の手はいつも彼がしている手袋はなく、彼本来の温もりを伝える。 「…んっ、美味しいね。思っていた以上だ」 「み、光忠さ…っぅん…」 「そう…接吻の時は目を瞑るものだよ…っん…ぁ…ねぇ、もっとしてもいい?」 「ふ…ッぁ、…っんん…んっ…」 何度も喋むように繰り返されるキスは甘く、強請るようにの下唇を食む光忠は舌先で歯列をなぞった。 背筋がゾクゾクした。 その反面、躰はどんどん熱を帯びていくのが分かる。 は言いようのない浮遊感に助けを求めるように光忠の背に手を伸ばし、キュッと抱き締めた。 「ちゃん…可愛い…っん、君は僕を放しちゃダメだよ?」 「ッン、ぁ…光忠…さ…ァ、…っん…」 深くなる口付けに溺れるようには光忠に身を委ね、一日の始まりから恍惚の中へと誘われていった。 ■戻る |