■ただいまとおかえり【前編】
長期遠征から太郎太刀が帰還すると報告を受けたは朝からずっと落ち着かなかった。 彼が遠征に出るのはこれが初めてではないのだけれど、出掛けに妙な事を言って出ていくものだから胸がざわついて仕方なかった。 任務自体も危険を伴う。 無事を祈るだけの毎日から漸く解放されるのだからもっと浮かれるものだと思っていたが、現実はソワソワするばかり。 早く彼に会いたい気持ちと、どんな顔して迎えればいいのか…複雑な気持ちが入り乱れていた。 そして、もう陽も落ちようとし始めた頃、それは遂にやってきた。 「───…主、太郎太刀です。今、宜しいですか?」 「はいっ!どうぞ…」 部屋の障子に映る大きな人影と、久しぶりに聞く声に胸が高鳴る。 「失礼します。ふぅ…今帰りましたよ、主」 切れ長の涼しげな瞳が細められ、美しく微笑む太郎太刀がいた。 は思わず駆け寄り、彼の胸に飛び込んだ。 「───っ!?あ、主っ!」 「良かった…あなたが無事に帰ってきてくれて…」 「主…」 そっと背中に回された腕に抱き竦められたは、彼の胸に顔を埋めた。 鼻腔をくすぐるよく焚き込められたお香のいい香りがする。 「ちょ~っとぉ~お二人さん、アタシも居るんですけどぉ?」 後ろから聞こえてきた声にハッとした。 と太郎太刀は慌てて躰を離し、格好のつかない咳払いをした。 「じ、次郎さんっ!!…いつからそこに…」 「バカねぇ、兄貴と一緒に来たんだから最初から居たに決まってるでしょ。アタシを無視して二人の世界に入っちゃうなんて失礼しちゃうわっ!」 「す、すみません…」 「面目ない…」 何も言い返せないと太郎太刀は揃って次郎太刀に頭を下げた。 「まぁいいけどね。久し振りに会えて浮かれる気持ちも分かるし、ちょっと羨ましかっただけよ。遠征中、兄貴ってばずっとアンタの事ば~っかり気にしてたのも見てたしね」 「じ、次郎太刀っ!それは───」 「───別にいいじゃない、本当の事なんだから。…って、ことで、報告は兄貴一人で充分よね?長旅でもぅクタクタ。疲れちゃったからアタシは先に休ませて貰うわよ」 「こら、そういう問題じゃないだろう…って、おいっ!」 太郎太刀が呼び止めるのも聞かずに、次郎太刀はそのまま「ごゆっくり~」と手を振って去ってしまった。 取り残された二人は呆然と立ちすくみ、互の顔を見合わせると、自然と笑が零れた。 「私が気を利かせなかったばかりに申し訳ない。それにしても…報告までが与えられた任務だというのにそれを放棄するなど全く、あれにも困ったものです。後で言って聞かせますのでお許しください」 「いえ、私の方こそはしゃいでしまって…すみません、急にあんな…はしたないですよね…」 「そんなことはっ!……そんな事はありません。その…久し振りに主に会えて嬉しかったのは私も同じです」 太郎太刀はそっとの頬に触れると、もう一方の腕での躰を抱き寄せた。 「ああ…やっと貴女に触れられました」 「太郎さん…」 見上げると、微笑む彼の顔がゆっくりと近付き、やがて二人の唇が静かに重なった。 「主…ずっと、貴女に焦がれておりました」 「私も…太郎さんは強いし、次郎さんや他の皆も居るから大丈夫って思っていても、やっぱり怪我してないかとか心配で…」 「えぇ、私はなんともありませんよ。皆と共に無事、貴女の元へ帰って参りました」 「はい。お帰りなさい、太郎さん」 再び交わす口付けは先程よりも深く、深く、互の舌を絡めながら息吐く事も忘れて貪った。 力の抜けていくが倒れないようにと太郎太刀はグッとの腰を引き寄せた。 「っ…ぁ…」 唇を離すと、互の舌先にツーッと一筋の銀糸が架かり、ぷつりと消えた。 「ふふ、貴方は本当に可愛らしいお方ですね。そのように蕩けた 「太郎…さん…」 「本当はこのまま貴方を感じていたいのですが、私も随分と汗をかいておりますし、湯浴みをして、一度身を整えねばなりません。ですから主、続きは今宵……貴女と褥を共にする事をお許しいただけますか?」 軽く掠めるだけの口付けがチュッと切ない音をさせる。 「はい…あ、あの…お待ちしてます」 頬を真っ赤にさせながらは太郎太刀をまっすぐ見つめた。 そして彼も嬉しそうに顔を綻ばせた。 「承知しました」 太郎太刀はの耳許に直接そっと囁いた。 ■戻る |