■世界で唯一の君
幾つもの時を見てきたウキョウがただ一人幸せを願った相手がだった。 これを『運命』と呼んでしまうにはあまりにも短絡的でウキョウは好まなかったが、とても尊い存在だと感じていた。 一緒に在るはずがなかった存在。それでも、ウキョウはどうしてもを諦めきれなかった。 自分を知らなくても、彼女を生かす為に何度自分の身を傷付け、命を落としたとしても。 「ウキョウ、どうしたの?」 「うんん、なんでもないよ。のことを考えていただけ」 「もぅ…私、ウキョウの隣に居るのに?」 「そうだね。うん、は俺の隣に居るんだよね」 照れたように頬を赤らめるにウキョウは嬉しそうに瞳を細めた。 そして、の存在を確かめるようにウキョウは彼女の手を取ると伝わってくる温もりに心の底から安堵した。 嗚呼、は生きているんだ、と。 白くて華奢なの手に指を絡ませ握り締めると、ウキョウはの躰を引き寄せた。 ふわりと香るの髪までも彼女を造る全てが愛しい。 突然の抱擁に驚くを余所にウキョウは彼女の耳許に唇を寄せた。 「…好きだよ」 「───っ!?ねぇ、ウキョウ本当にどうしたの?」 「だからどうもしないよ。今、君を抱き締めたいって思ったから抱き締めて、そしたら…あぁ、やっぱり俺はが好きだなって思ったからそう言っただけ」 「でも…恥ずかしいよ」 「俺たち二人しか居ないのに?あっ!アイツが出てこないとも限らないから…でも、ホラ見えてる人数的には実質二人だからもんだいないよね!」 「そういう問題?」 「まぁ…いいんじゃない?それに、多分俺でもアイツでもきっと同じように君を抱き締めると思うよ」 ウキョウはの頬をそっと撫で、妖艶に微笑んで見せた。 どうして?と聞きたそうなにウキョウはクスッと笑を零すとおでこをコツンと突き合わせた。 の大きな瞳が瞬きする度にバサバサと長い睫毛が上下するのがよく見える。 互の吐息が掛かる距離まで近付いて、触れて…そうしていられる事がウキョウにとってどれだけの奇跡を詰め込んだとしても足りない幸せなのか、きっとには全部を理解できないだろう。 ウキョウはそれでも何も不満はなかった。 あまりに突拍子もない事情を幾つも受け止めてくれただけで充分だった。 ただ生きているに会いたいというエゴばかりで、どれだけの時を費やしてきたのかすらウキョウにももう分からなくなっていた。 普通じゃない事象も体験もどうってことなくなるくらいには色々なものが歪み狂ったが、それでも最後にこうしてが傍に居てくれる今があるならそれ以上なんてもうウキョウには想像できない。 「君と一緒に居られるようになって結構経つけど、俺にはまだ夢みたいな時間なんだ。これが現実だって思えるようになるには全然足りない。それに、もういつ何が起こるか分からないような経験ばっかりしてきてるからね、どんなことが起きても後悔しないように生きるってアイツとも決めたんだ」 「大丈夫だよ。私はずっとあなたの傍にいるから」 「うん。けどね、『好き』って言葉にして、実際にこうやって君を抱き締めた方がずっと大切さが身にしみるっていうか…もっと好きになるんだ」 愛してると囁いたウキョウはの唇に自分のそれを重ねた。 チュッとリップ音を立てた軽いキス。ふと見つめ合えば自然と二人は微笑み合い、どちらともなくまた口付けを交わす。 こんなやり取りだって今に始まったことではないのだが、飽きるなんて言葉は全く見つからない。 「ねぇ、ウキョウ。私だってあなたのこと…その…愛してるからね?」 「うわぁ~…これはちょっと…」 「な、何っ!」 「いや、その…自分で言うのもいいけど、君に言って貰えるってのも予想以上に感激っていうか…ヤバイね」 散々自分から言うばかりだったウキョウにとって、からの不意打ちはとても効いた。 いつも照れて赤面するを単に可愛いと思ってきたが、確かにこの破壊力は凄まじいものだとウキョウも言われる側になってみて初めて実感した。 単純に嬉しいとか恥ずかしいよりも、もっとストレートに理性を揺さぶられた気がした。 「あ~もぅ~…、君がいけないんだからね」 「何が…って、きゃっ!ちょっと、ウキョウ!?やだ、下ろして!…ぅんんッ!?」 を軽々と横抱きに抱えると、慌てふためくの唇を塞いだ。 すぐに離れたウキョウの顔は悪戯っ子のような笑みでを見下ろし、何度も喋むようなキスを降らせながら寝室へと足を進めた。 ウキョウは到着した寝室のベッドの上にを下ろすと、起き上がる隙も与えずにの顔の両脇に手を突いて覆い被さった。 さらりと落ちるウキョウの長い髪もまたの周りを囲むように広がる。 まだ陽のある内からこんな風になったことがないわけではないが、が慣れる程の数はこなしていない。 少しの背徳感といつもとは違う状況に対する高揚感が入り乱れていく。 勿論、にもここまでくれば抗い続ける理由もそんな余裕もこれっぽちもなくて、後はただ自分を見下ろす艶めいた瞳に吸い込まれるように身を委ねるだけ。 「愛してるよ、」 「うん、私も…」 それはまるで呪文のように二人の中に染み込んでいく温もり。 指を絡め、唇を重ね、徐々に全身を溶け合うように一つに繋げる。 ウキョウはこれが当たり前でない、あるはずのなかった奇跡だと知っている。 それでも、一縷の望みに縋って勝ち得た未来だ。 他の誰でもないだからこそ恋焦がれて求め続けた。 足りないなら足りるまで、愛を囁き、身をもって示すまで。 枯れることのない想いを、唯一人の愛する人に捧げるだけ。 ■戻る |