■ようこそ★My Honey
【-2-】 約束した日から暫くして迎えたこの日────── の誕生日当日────── はとあるマンションの一室…黄瀬の部屋番号のインターフォンを押した。 「いらっしゃい。それから、ハッピーバースディ!っち!!さぁ、バッチリ準備できてるんで、入って、入って♪」 満面の笑みで迎えてくれた黄瀬に促され入った部屋は、シンプルだけどセンスのいい黄瀬らしいお洒落な部屋だった。 くるりと見渡すに黄瀬は「珍しい物とか何も無いッスよ」と苦笑した。 「結構キレイにしてるんだね」 「まぁね♪…って言いたいけど、実は昨日の夜メチャクチャ掃除したんスよ。もう、どこもかしこもピッカピカに磨き上げたんスよ~」 黄瀬は一度ハマるとトコトンやり込むタイプらしい。 きっと、の目に触れる事の無い隅々まで綺麗にしたんだろうと思うと微笑ましかった。 「そんな事より、飲み物とってくるッスよ。っちは何がいいッスか?」 「あぁ、…お構いなく」 いくら彼氏の部屋といっても、初めて訪れる人様の家はやっぱり緊張するものだ。 の不自然な余所余所しさにフフッと微笑みを零す黄瀬は、 「そう言わずに。出せるもんもコーヒーと紅茶くらいで、仕事先で貰ったやつなんスけど、俺的には紅茶がオススメ♪」 茶目っ気たっぷりの黄瀬に乗せられて、は紅茶を貰うことにした。 ローテーブルに二つ並んだマグカップ。 黄瀬が用意してくれたバースデーケーキと料理の数々。 ランチの時のように二人肩を並べて座っていても状況は随分違っていた。 今は着慣れた制服じゃなくて見慣れない私服。 校舎裏の古びたベンチでもなく、座り心地のいいソファーで… 見るもの触るもの全部に黄瀬を感じる。 「すごーい…こんなにいっぱい…」 「っちは今日は主役!!お姫様ッスからね~♪さぁ、遠慮しないで。まずは…ヤッパ、ケーキからッスね!」 そう言って黄瀬はテキパキと動き出した。 昼下がりではあったが、遮光カーテンを引いた室内はそれなりの暗がりへと変わり、ロウソクに灯された灯(あか)りが二人の影を揺らめかせていた。 「準備完了っ♪っち、フーってして」 差し出された小ぶりのホールケーキ。 は揺らめく仄かな熱に顔を寄せ、フーっと一気にそれらを吹き消した。 「ハッピーバースディー!!おめでとうっ!っち!!」 「うん、ありがとう。…すっごく嬉しい!」 薄らとした暗がりの中で微笑み合い、黄瀬は両手での頬を掬い上げると、チュッと軽くキスを落とした。 「今なら二人きりだし、チューしてもいいッスよね♪」 「…って、それ、してから言うこと?」 不意打ちのキスには顔を赤らめた。< 先日の事を引き合いに出されても狡いキスには変わりない。 が理不尽な何かを訴えようとするより先に、悪びれる様子もなく再び唇が塞がれた。 「生まれてきてくれてありがとう…っち」 「…もぅ~大げさなんだから」 結局、黄瀬には勝てそうもないとは悟るのだった。 「俺は本気ッスよ。っちと出逢えて、付き合えて…今こうして誕生日をお祝いできて、幸せの絶頂なんスから!」 ムキになって唇を尖らせながらプリプリ怒ってみせる黄瀬にはにっこりと微笑みを深くした。 「ありがとう。私も、黄瀬にこんな風に祝って貰えて嬉しい。黄瀬の誕生日も今度は私がお祝いするからね!」 「ん、今から楽しみにしとくッスよ。さぁ、折角色々用意したんで食べて、食べて!あ、ケーキも切り分けてくるんで、テキトーに食べ始めてていいッスよ」 スっと立ち上がった黄瀬は、が吹き消したばかりのケーキを持って、一旦キッチンの方へと下がって行った。 綺麗に切り分けられたケーキを食べやすいように取り分けてくれたりと、甲斐甲斐しいまでに黄瀬は優しくてを本当にお姫様にでもなったような気分にさせてくれた。 「嫌いな物とか無かったッスか?」 食べ始めてから暫くして、黄瀬がの様子を伺う。 勿論、は大満足していた。 「うん、どれも美味しい。これって黄瀬の手作り?」 「ケーキ以外は手作りッスよ♪気に入って貰えたら良かった」 盛りつけまで完璧な料理の数々には最初に見た瞬間、目を見張った。 「すごいね。ホント何でもできちゃうんだもん」 「んー…どうなんスかね~。好きな事だったら上手くなりたいって思うから頑張れるけど、勉強とかは苦手だし……」 ふと食べる手を止めた黄瀬がはぁーっと盛大なため息を吐きながら横目でを見やる。 「例えば……好きな子一人喜ばせてあげられてるのか…意外と自信ない事もあるんスよ?」 「何それ…」 急に見せた黄瀬の真剣な顔に躰が勝手に身じろいだ。 「だってっちと居るとなんか…それだけでいっぱいっつーか……幸せだなぁって。でも、自分よがりになりがちだなって。ちゃんとっちの気持ち考えてあげられてるのかなって思ってるんスよ」 「私は、黄瀬と一緒に居られていつだって嬉しいよ。自信がないのは寧ろ私の方だよ。どうしていいか分かんないことばっかで……っぅん…」 顎先を掴まれ、それ以上何も言えないように塞がれた唇。 触れるだけのそれとは違う。 にとって初めての大人の口付け…… 「…黄瀬?…ぁっ、ぅんんっ…」 「……名前で呼んで?」 「りょう…た……」 初めて呼ぶ黄瀬のファーストネーム。 呟いただけで胸がキュンとなる…まるで魔法の呪文のよう。 「…っん、もっかい…呼んで…」 「りょ…っぁん、りょうた…っぅん…」 呼べば何度でも熱いキスが降ってくる。 呼吸の仕方すら忘れさせるような激しくて深いキスの嵐にはに思わず躰を引いたが、黄瀬がそれを許さない。 グッと腰を抱き寄せられ、もう身動きすらできなくなっていた。 何度も吸い付くようなキスを浴びて、唇が腫れてしまうんじゃないかと思う程繰り返し、繰り返す。 口内で絡まる舌の感触に背筋がゾクゾクと粟立つのを感じた。 ゆっくりと名残惜しむように離れていく舌先にツーっと銀糸が伝って消えた。 「何もしないって言っときながらゴメン…怖がらせたくないのに…ちゃんとっちの気持ちを待とうって決めたんスけど、俺、全然抑えらんなくて…ゴメン……好きなんだ…」 痛いくらいに優しくて切なくさせる黄瀬の告白はもう何度目だろう。 思えば、彼は最初からそうだったのに、向き合えずにいたのはだった。 待っていてくれた。 それが何よりも嬉しかった。 「いいの…いいの。ねぇ…私を抱いて?黄…───涼太。最初に抱かれるなら涼太がいい。誕生日プレゼント、まだ間に合うなら涼太が欲しい」 「っち…」 お願い…と思いを込めて、今度はが驚いて目をパチクリさせる黄瀬にキスを送った。 少しぎこちないそれにも、黄瀬は抱き締める力を強め、に応えた。 ■戻る |